クラシック音楽専門店

ドホナーニ的バランス感覚と愛
素晴らしい演奏だ。決して熱くない。しかし、つまらないのではない。
終楽章を聴けば一聴瞭然。並々ならぬ集中力と求心力が聴けるはず。
細部まで磨かれ明瞭であるが流れは快適。作品から一歩引いて、
全楽章を俯瞰してみると、細部と全体の絶妙なバランス感覚は凄いとしか
言いようが無い。

煽ったり没入するだけが愛情表現ではない。繊細で慈しみの感じられる演奏だ。
エゴ丸出しの演奏に毒されている人には一服の清涼剤となるだろう。
無味無臭
よくもまあ、こんな演奏ができるものだ。あらゆる音符がただひたすら水道の蛇口から出る水のごとく、とうとうとしており、何の面白みも何の味わいもない。オケはべらぼうにうまく、人のぬくもりはいっさいない。
では即物的かというと違う。無味無臭といったほうがいいだろう。

しかしマーラーってこんな音楽なのだろうか。楽譜の勉強をするのにはブーレーズとならんで最高だ。しかしブーレーズのほうが一枚も二枚も上手だというのが私の感想。音楽をどう伝えるかの違いからくるものであろうが、私にとってはこの評価となった。
この響きを聴け。
マーラーが作曲時に何を考えていたかは、どうでもいい、とにかく、感情は押し殺し、どうすれば美しく響くかということだけを考えて指揮したとしか思えない。しかし、それが悪いのか、というと、そうではない。むしろ成功しているのだ。冷たい氷の城の、張りつめた空気の中で聴いているような、美しさだ。これは、バルビローリの対極にある演奏だ。オケは本当に上手い。一瞬のミスも乱れもない。ドホナーニ／クリーブランド管弦楽団の組み合わせは、セル、マゼール時代より、ずっとオケは上手いと思うが、あまり人気ないのはなぜだろうか。
新世紀を導いた曲の新世紀を導く演奏
　この指揮者とオーケストラは、よけいな装飾を排した解釈と訓練されたアンサンブルによって、音符の一つ一つを残酷なまでに提示して聴くものの想像力を刺激する。商業的には必ずしも成功していないにせよ、これからの世紀の演奏スタイルの一つの尺度となりうるものである。そうした彼らの演奏によってこの曲は、情緒的な感情移入の対象に過ぎないのではなく、のちに続く作曲家たちを導いた巨匠の意欲的な実験に満ちたものであることを全面的に明らかにしている。

身もとろけるヴァイオリンの至芸！！
　リズムとは何だろう、技術とは何だろう。
　このセットから何枚かをつまみ聴きしただけで、現代の演奏を聞き慣れた人は大きな疑問を抱かざるを得ないのではないか。それだけのインパクトを持った演奏が、ここには揃っている。

　ティボーの演奏は悪く言えばとにかく滅茶苦茶である。楽譜に書いてある音の長さをまったく守っていないように聞こえる。試しにモーツアルトの協奏曲６番を聴いてみてほしい。かなり几帳面に演奏を始めたオーケストラに対して、全く別の独特の間合いを持ち込み、オケと聴き手を同時にティボーの世界に引き込んでしまう。頭の中で拍子を刻んでみるがよい。２〜３拍でついていけなくなること請け合いだ。
　誰も真似できない。音楽教師はおそらく「真似してはいけない」と!!だろう。しかし、これだけの美を音楽の中で達成した人が他にどれほどいるのだろうか。少なくともティボーが音楽をやっている範囲に於いては、このリズムの刻み方、音の鳴らし方は決して間違ってはいない。正しいのだ。

　技術的な傷も目立つとよく指摘される。しかし、これほど美しく甘美な音を奏でたヴァイオリニストが他にいるだろうか。それは技術が卓越しているということだろう。

　他の作品、特に小品は絶品。ぜひ多くの人に聴いてもらいたい。